野遊の将棋物語34 これも決断力

王位戦第5局の後半戦は、どんなにもつれ込むのかと思われるような2棋士の戦いだったはずだけど、終盤なのだろうかと思うようなところで突然豊島竜王が投了した。野遊はこの日はレアでは見られなかったけど、後で見直すと、野遊みたいなのにはとてもすぐにはわからない棋譜だった。解説に助けられながら見ていったが、豊島竜王の洞察眼には恐れ入ってしまう。ずっと先の手なのに、まあ読むことは最高の棋士たちだからできるのだろうけど、その読んだとおりに相手が指してくると理解してしまうことへのびっくり。両者の見極めた最善手の応酬を予想するのって、まずそれを相手が必ず指すと思うことから始まり、でも、これだけ手筋があるのだから、どこかで最善ではない一手を出してしまうかもしれない、と期待して、どんどん間合いを詰めていくうちに、すでに1分将棋に迫られていき、ほんの1か所、わずかにミスることもあるはずなのに、今までにそういう対局は数限りなくあるというのに、豊島竜王は、藤井王位が、難路の果てにも、そのミスを誘発することはない。とはっきり判断し、それならこれ以上指し続けても結局は戦局は変わらない。と判断して投げた。すごい決断力ではないか。常人だったらまだまだ諦められない場面で切った。

解説の深浦九段は、「豊島竜王は藤井王位を信頼して」という表現を使用した。相手の確かなる強さへの絶大なる思い。

藤井王位でなく永瀬王座だったらどうだったかな。もしかしたら竜王は、もっと指し続けてミスを待ったかもしれないかな。

野遊はこんな投了を初めてみた。スパッとしている。キュンはどんな気持ちだったことか。身を切るような決断であったに違いない。

羽生さんに褒められるような投了だったと言えるかな。