野遊の将棋物語37 竜王戦が始まる

十九歳の藤井聡太三冠の活躍は、将棋ファンを喜ばせ、他の層の人々をも振り向かせた。そんな注目を浴びる中、竜王戦が始まった。対する豊島将之竜王は、強い棋士が立つべき場所にポツンとひとり立っている。能楽堂に登場した竜王の着物は白、袴は紫。何という決意。どんどん成長して手に負えなくなったライオンに、人間が素手で立ち向かおうとしているかのごとく。まだあどけなさの残る青年と、ゆかしき風情の漂う竜王。第一局は藤井三冠が制した。双方切っ先鋭く奥深く、空中を鮮血がほとばしるような激戦であり、静かな感想戦は、神々の対話のようであった。ああ、佳き棋士たちよ。年末まで竜王戦は続く。期待され突き進むエースに対峙するトップ棋士の心境はいかばかりのものか。けれど豊島将之は、冬島時代を乗り越えた筋金入りの棋士だ。大好きで入った棋界ではないか。どうかこれからも前を見つめ、元気に歩み続けてほしい。ご健闘をお祈り申し上げます。キュン、トヨピッピ。