野遊・呼吸の世界 14 隊長スコットの遭難

(17)8400M バルコニー下

スコット隊はすごい。顧客9人、全員登頂させた。顧客たちもすごい。でも疑問が残る。しんがりを務めて登っていた隊長スコットは、全員が頂上に立ったと知らせを受けた時点で、どうして下山を開始しなかったのだろう。スコットも、ここまで来たからには頂上を踏まなくてはいられなかったのか。だとしたらスコットも登山欲に突き動かされた登山家であって、ガイド長たりえないではないか。彼らは自分が登りたい山と、顧客に登らせる山の区別をつけているべきなのに、このお粗末さはどうだ。それまでのスコットには悲惨なる事情が襲いかかってきて、登頂日までにさんざん苦労して気の毒だったが、そこまで隊長として頑張ったなら、下山も顧客と共にすべきだった。顧客はすでに下山にかかっていて、アナトリはテントに帰ってしまったし、顧客たちについているガイドは二ールだけ。それも、みんなてんでんばらばらに下っていた。おそろしいことだ。

スコットについているのは一人のシェルパだ。シェルパが隊長の付き添いなんてこと自体がヘンだけど、隊長が遅れてあえいでいるのだから仕方ない。それにこのシェルパは、スコットと信頼関係を築いていたようだ。

そこでこの(11)で、ロープのセッテッングのいざこざを書いたが、あのときロープをセッテングしに来なかったシェルパが彼で、彼はスコットから、顧客サンディをフォローするように言われていたとか。出かける前、やおらサンディをぐいぐいリードしたそうで、それは数時間だったそうだが、サンディが無事登れるかを心配したスコットが、このシェルパに手助けを申しつけた。(と、このシェルパは後日証言している)サンディについては、あとで書く。

いや、ほかにいくつか想像してしまうことがある。それは結構真実に迫っていると思えるのだが嫌な仮定であり、重い量になる。で、今さら不穏なことを追求するのが辛いので・・・やめておく。とにかくこういったことで、ロープのセッテングが遅れたことにつながっているのだ。

下りでスコットは具合が悪くなる。「気持悪い。俺はもうダメだ」とシェルパに言ったそうだ。8400Mのバルコニーを下った地点で、スコットは動けなくなった。きっとバルコニーのあたりが16時、天候の悪化するころだったのだろう。

シェルパはぎりぎりまでスコットに付き添うが、もうスコットを動かせないので、必死で単身下り、真夜中にテントにたどり着いて、もう必死で救援を頼むのだが、サウスコルにも遭難した顧客を抱えていて、そんな、さらに何百メートルも上方の、しかも稜線になんか、行ってくれる人はいなかった。シェルパ自身も引き返す力は尽きていた。スコットは死んでしまう。

ああ、どんなに惜しい命が、エヴェレストに要求されたことか。