野遊・呼吸の世界  19 エヴェレスト最大の遭難事件

(23)蟻のように頂上に

この事件は、エヴェレスト登山史上最大と言われた。二つの大手の登山ガイド社、アドベンチャー・コンサルタンツと、マウンテン・マッドネスの隊長が2名ともなくなり、ガイド1名(アンディ)、顧客2名(ダグ、康子)、シェルパ数名がなくなり、台湾隊も1名(前述)、滑落死している。凍傷で手足指を失った者たちも出た。中でも重症はベックと高だった(前述)。
5月10日のアタック日、ローツェに登っていた登山者たちは、エヴェレストを仰ぎ、黒い転々が、蟻のように続々とつながっているのを目撃して、エヴェレストにしなくてよかったと思ったそうだ。30人以上登っていたのだから。上は狭いのに。岩壁はロープを伝って登りも降りも1本なのに。

山には意識がないから、そんな登り方をして、山の怒りに触れたとかいう言葉は無視するが、いくら天気がよくても、いつ何時激変するかわからない高所に向かって、大人数で登ってしまったことは、この遭難は、人為的なものと言える。その以前からの、いくつもの人為的な原因(前述)が重なり合って招いたことだ。

事故の数日あと、帰りに生還者たち数人(サンディがいたそうだ)と同じ乗り物に乗り合わせた他峰の登山者が、包帯で巻かれた彼らの惨めな姿に驚いている。

彼らは隊長を失って帰還したのだ。生還したとはいえ、心は曇り、精根尽き果てていたことだろう。

さて、そんなときガイドのアナトリは、エヴェレストの帰り、隣のローツェに登っている。常識では良識では考えられない。どういう神経をしているのかと思う。第一なぜそんな余力があったのか。その体力の使いどころが不当だ。