呼吸の世界 20  ジョン・クラカワーの書いた遭難記事

(24)ジョンにも難点を感じる

ジョンはジャーナリストとして、帰国して早速勤め先の機関紙に、事のあらましを掲載した。できるだけ正確をきたし、ベースキャンプでキャッチしている情報を確認し、生還者たちに事情を聞き、自分の記憶をたどった。事故直後の掲載なので、多くの人に読まれることとなる。やがてそれを1冊の本にした。

この『INTO THE THIN AIR』は、先にも書いたように、優れた書物だと思う。が、ジョンに対して、難点を感じる部分がある。

ジョンは、一大決心をして体を鍛え、出かけてみると、ジョンの目からは、思わぬ初心者的顧客がいっぱいいたので、自分は別格だと思う節があったような気がする。それがガイド登山っちゅうもんだとおおらかに思えないようだった。カトマンズ入りしてからは、取材よりも登山者の心意気なのだろう。

自分のことだから書いていないが、活動が始まってからは、その点でロブにちょっと憂慮されていた顧客だったのではないかな。それはキャンプを伸ばす日も、大きく引き離してトップを切っていたそうだし、アタック日、一人で先に行くなとロブに言われたことなどからうかがえる。強いことよりも、ロブは、目立つ行動をせず、言うことを聞いてくれる、協力的な顧客が安全だと思っていただろう。


(25)サンディ・ヒル・ピットマンを筆でやっつけてしまう

ジョンは、スコット隊のサンディを、かなり批判的にみている。サンディもジャーナリストだった。彼女は個人費用を払ってシェルパに交信器具などを持たせ、アメリカに情報をいち早く送信していた。キャンプでの振る舞いも目立ったようだ。スコット隊長は、サンディが登頂できたら、雑誌などにいろんないいことを書いてくれるだろうと期待していたし、登頂できなかったらコワいぞ、と思ってもいただろう。大事にされていただろう。それを武器に、派手に振舞うサンディは顧客の間でも、ちょっと辟易されていた面があったようだ。

ジョンは最初からサンディの存在が気に食わなかったのではないか。同業という意識、それにしてはなんだい、という意識。女のくせに、という意識。ジョンはサンディが鼻持ちならなかったのではないか。でもサンディは明るくて楽しい人だったと、ベックは言っている。

サンディはアタック日には、出発から、個人雇いでないシェルパに引っ張ってもらったり(そのためにロープのセッティングが遅れた)、しかも下りは遭難して救助されている。これで彼女が優れた登山者なら、あそこまで非難はしなかったのではないか。ジョンは選抜意識が強いと思う。

帰国してから、サンディは、ジョンが書物で彼女を非難したあおりを食らって、世間の冷たい目にさらされることとなるのだ。サンディが(アナトリのように)反撃しなかったから、そのままになった。そりゃ実力のある男性ジャーナリストに、個人感情も含んだ迫力で非難され、世間が同調してしまえば、サンディはひとたまりもなかったことだろう。ジョンによって、同業サンディは、一刀の元につぶされてしまった。気の毒なことだ。