鎌倉駅前の交差点物語(27)

堀野先生の話の次は、車椅子利用者の有山氏が挨拶した。彼の言葉は、慣れている人にはわかるが、初めての人には聴き取りにくいので、神奈川大学の学徒がそばにしゃがんで通訳した。さすがに鎌倉市内を歩きまわってバリアフリーの思念を学んだ若者だけあって、彼は有山氏の言葉を正しく聞き取った。野遊の前の席のご婦人が、ちょっと身を乗り出して、時々うなづいていたので、有山氏の一生懸命言葉を発する姿に、やはり人は感ずるものがあるのだと知った。昨年有山氏はこのシンポジウムで、ほんの三言しゃべっただけだったが、今回は自信をつけたのか、これからもこういった研究に身を投じていきたいという積極的な内容の話をした。

千一が挨拶した。これは音声キーボードを使用するのだが、彼はまぶたが思うように動かなくなり、何度も何度も、佐伯氏にまぶたをぬぐってもらいながら目をあけようとして、沈黙の時間のほうが多かったが、皆さんお行儀よくしんとして待っていた。
千一も例によって冗談の一つも言いたかったのではと思うが、こういった事情で残念ながら、時間がかかったわりには、内容は簡単な挨拶で終わった。

千一が目をつむっていても打てるキーボードはないものだろうか。彼の足指先は手のように敏感に動くので、視力の弱い人用の、指で触ってわかる、そしてもっと大きいスタイルの音声キーボードが開発されないものだろうか。あるんだけれども、千一のようなケースの人には「帯に短しタスキに長し」で、「ある状況の人を設定して作成されたものを、その落差を堪えて使用」するしかないのが現状だ。これは書き出したら長くなるので今はここまで。

それから鎌倉市長の挨拶になった。つづく。