鎌倉駅前の交差点物語(13)会合

案内された会議室に、担当警察官が3名、(紹介されたが肩書きは忘れた)(名刺交換があったので持ってはいる)厳粛な面持ちで着席。
向かい側に着席しているのは鎌倉職員3名と千一、わたしの5名だ。
警察官の挨拶に、まずは職員が応じる。そして千一が職員によって紹介され、挨拶する。
ほんの一言の挨拶だが、時間がかかるのは言うまでもない。
警察官がたは千一が音声キーボードを左足指で一言一言打っていくのを眺め、待ち、それがつながった言葉として変換されてから、ようやく一言、返礼する。
鎌倉職員なら、ある程度は知っているだろうが、県警員は、あるいは聞き知っていたとしても、この状況は初めて体験するので、内心は驚いていたかもしれない。
じろじろという言葉がある。じろじろ見る。ということがある。良識ある県警の方々は、千一を決してじろじろは見ないが、素直な驚きの感情を、さりげなく千一を見つめ、やがてうつむきながら聞くといった態度などを以って、心でじろじろ見ていた。
それでいい。と、千一は思っている。そうやってじろじろ見てよ。そして私を知ってくださいと。
一人でも多くの方、私を通して知ってくださいねと。コッパズカシイなんて感情、かなぐり捨ててやってきたのだから。
本人は子供のころから半世紀以上生きてきた今日まで、星の数ほど恥ならぬ恥にまみれてきたので、慣れたのかもしれぬ。堪えることに慣れたのかもしれぬ。が、わたしはそうはいかなかった。わたしは未熟者で、ちょっとしたことにも敏感になってしまう。恥ならぬ恥に向かって、体が震えるほどだ。わたしの中では、鎌倉駅前の交差点の件とは関係なく、千一はどう見られているかの一点に絞られてしまう。
レニー・ブルース』という映画があった。主演はダスティン・ホフマン。彼が聴衆の前で語る。レニーは突然「この中に、黒人はいますか?」と聞く。
聴衆は静まり返る。何割か、黒人が混じっているが、そこにいるのは裕福な黒人なのだろう、立派ななりをしたまま、ソファーに身を沈めて、険悪な視線をレニーに注ぐ。もちろん白人も、何を言い出すかと息を呑んで聞き耳を立てる。
レニーは語る。「あなたは黒人ですね、はい、黒人です。わたしは黒人のだれだれです。黒人、黒人・・・!」黙した厳しい視線の集まった ただ中で、レニーは ほとんど叫んでいる。
「黒人黒人黒人!!・・・みんなが当たり前に呼びあった世の中が来たとき、黒人と呼ばれて泣く子はいなくなる」
おお、と、声なき声があがり、聴衆から静かに、やがて嵐のような拍手が湧き起こり、映画館の観客席からも歓声があがった。今や遠い思い出だ。この話、もう古いけどね^_^;
でも思い出していた。みんながごく自然に「障がい者」って言えればいいんだね。