朝日連峰 この秋 19 「朝日連峰よ高嶺の花よ」

「1870m朝日連峰は、東北の中でも最も原始的な面影を残している山塊です。豊かな渓谷がおりなす山岳形態。そのスケールは、南北60キロ、東西60キロに及びます。深く濃く、伸びやかに横たわるその姿は、東北のアルプスとも呼ばれています。山腹はブナの広大な林、云々」(『花の百名山』より)

あのぅ、東北アルプスなんて呼ばないでね朝日連峰です(^.^)

標高2000メートルにも満たないのに、東北の山のお花の重量感はすばらしい。


でも朝日連峰にしか咲かないお花、というのはないそうだ。朝日連峰はどことも比べず競わず、あくまでもお花のいっぱいの山だ。数の多さにかけては季節の変化に伴い指折りの山だそうで、山腹に、尾根筋に、花々が咲きそろう。いっせいに咲く季節はわずかな期間で、南北に縦長なので南から咲いていき北へ移り、まもなく南から枯れていって北に残る。

雪の季節は一面真っ白なこの山だが、お花の季節も白い花がにぎわう。ヨツバシオガマ、ウラジオヨウラクアオノツガザクラチングルマイワイチョウタムシバ、不思議な形のズダヤクシュ、ピンクを帯びたサラサドウダン、梅のような丸みを帯びたサンカヨウ、鳥が飛び立つ姿のトキソウ、赤い実をつけるナナカマド。
黄色いお花は、おなじみのかわいいミヤマキンポウゲ、ウサギギク、オトギリソウ、大輪のニッコウキスゲ。綿帽子をかむったようなミヤマウスユキソウは、真ん中の黄色がお花だ。天からの霧をかむったモールのようにやんわりと白いのは花弁に見えるが、葉の変形したもの。高さ10センチ前後の多年草だ。
紫はフウロウソウ、トリカブトマツムシソウ、いかにも高貴な花々が、惜しげもなく咲く。そして東北の女王ピンクのヒメサユリ。などなど・・・

ところでミヤマクロユリは、月山山頂に群生地があり、飯豊にも咲き、東北地方ではこのふたつにしか見ることができない貴重な花だという。
その間にある朝日連峰にはないそうだ。どうしてだろう不思議だ。

北アの秘境「眠り平」(水晶池の奥地)に、クロユリの大群生地があるが、今は道がない。一昨年、野遊は竜晶池から赤牛の稜線に出る道を研究している方に、この眠り平に、かすかに残るほとんど不明の道をかき分けて連れて行っていただいたことがあるが、残念ながらちょっと時期が早かった。けれどクロユリはいろいろなところでよく見る。名称にミヤマがついたり、何々クロユリ、とその山の名称がついたりするのは、どこかにそこだけの特徴があるからだろう。場所によってのわずかな違い。でもクロユリクロユリ。本当にクロユリは朝日にないのだろうか?疑問〜

野遊が好きなのはコバイケイソウだ。音符が飛びはねているみたいだから。コバイケイソウが草原に咲いていると、歌声が聞こえてくるようで楽しい。(ちなみに野遊のこのブログの絵も、コバイケイソウ野遊撮影♪)

初めてお花畑を見たとき、10代だった野遊は、あんまりどれも小さくて、もっとほかに本格的なお花畑があるのではないかと思ったものだ。だって花壇といったらダリアとかバラとか、お花がもっと大ぶりで、いかにも主役だから。高山植物は小さくて、草の部分のほうが多いので、野草が散らばった道、というくらいな感想だった。

そういえば娘を大日岳(北ア)に連れて行ったとき、お花畑よと言ったら、娘は、えっこれが?と笑ったことがある。「雑草の野原」と見えたらしい。その気持、わかる。やがて娘はその後の山行で、たくさんの高山植物にカメラを向けていた。いつのまにか気づくのだろう。


高山植物は、知るほどに、だんだん大きく見えてくる。
(といっても野遊は、上記に掲げたお花の全部は言い当てられません)

高山植物に一番ぴったりの言葉が「可憐」「けなげ」だ。低く足元に咲いているのに「高貴」だ。そこに行かなければ会えない貴重な花に、人間は「高嶺の花」という最高の表現を使う。

朝日連峰もそれなら、高嶺の山か。