焼石岳 6 草刈り

写真家さんが時々口にする「清川行人小屋」は月山のバリコースにある。
朝日連峰の天狗角力取小屋の番人を辞した山田さんが、もう静かに家で過ごすのかと思いきや、やっぱりこういうことが性に合っているのだろうか、清川行人小屋に入った。天狗の小屋時代と同様、山田さんを慕って、彼が小屋にいる週末、色々な方面からの登山者が集うそうだ。

「清川行人小屋が呼んでるよ〜」と写真家さんに言われ、そうなるとどうにも行きたくなる野遊、山友のちーちゃんを誘って2泊3日を捻出した。ちーちゃんは野遊より若くて強くて歩き方が上手だから何も心配なし。よ〜し、野遊にはとても険しい道だと思うけど、写真家さんの後をついて歩こう。ちーちゃんもいるし。と決意した。

ところが写真家さんからメールが。
「今年は猛暑が続き、焼石岳の夏道の刈払いが遅れています。笹竹の刈払いは、今年中に済ます必要があります。10月までかかる見込みで、今年は月山に行けない状況です。11月になると行人小屋も雪景色です」

は・・・? 草刈りって、夏前にするものと野遊は思っていた。秋に草刈りしても、もう登山者は来たあとなのに。それに、なぜ写真家さんが焼石岳の草刈りをするのだろう。岩手県の草刈り職員さんなのだろうか写真家さんは。などなど、まことに不思議な気持になったものだ・・・

野遊はまだ、これら「焼石事情」を知らなかった。
知らないまま、ちょっぴり焼石岳に嫉妬を感じた…

野遊が朝日連峰で出逢った写真家さんは、天狗の小屋に2連泊して写真を撮っていた。大きな真ん丸なお月様と、大井沢の街の灯と、黒く重なり合う山のシルエットは、静かな音楽が聴こえるようで、さながら物語の世界だった。
青空を背景の以東岳のてっぺんからわき出でるような白い雲は、まるでこちらに向かってくるように動いていて、風がそよぎ、収まった1枚の絵とは思えなかった。
野遊の中で写真家さんは朝日連峰の人だった。