ヒマラヤ山行 (16)集落 Ⅱ「大都会ナムチェバザール」

右手に川がずっと続いている。これがゴーキョから流れてくるドゥードゥコシだ。「ミルクの川」という意味だそうで、氷河が削った鉱物が混じって白濁している。
ドゥードゥコシ沿いに林間ルートを歩いていく。トレッカーが後ろから追いついてくると道を譲る。ポーターとすれ違うときも道を譲る。ゾッキョやヤクとすれ違うときも山側によける。野遊は気づかなかったけれど、このツアーの、優秀なる鬼コンダクターはゾッキョたちとすれ違うときは、「危険な擦れ違いを回避」するために気を遣ったようだ。ヤクやゾッキョを珍しがって近寄り過ぎると蹴られたり突かれたりするからね。

サガルマータ国立公園のゲートをくぐり、ジョサレ村を過ぎて何度か吊橋を渡って川のあちらとこちらを行ったり来たりするうちに登り坂になる。これがナムチェ坂のはじまりだ。向こうに長い吊橋が見える。高さ50mだそうだ。吊り橋を渡ってからも急な道が続くが、荷を積んだゾッキョが歩ける程度のものなので、急登というより急坂と言ったほうが合っている。ファイト〜と声をあげて登ってみた。そうすると活力が湧いてくる。

登りつめたところで眼下に開けた景色が、この深い山奥にあるナムチェバザール3440mだ。街を見おろす感じで広がっている。青い屋根と白い壁、時々赤い屋根の建物が、斜面がかった山肌に並んでいる。劇場の客席みたい。眼下の街は色とりどりで華やかだけど、向こうの人家は土に交じった同色系で、その向こうは山並みが続いている。
だれかが「・・・大都会や」とつぶやいた。今までの光景から、このようににぎやかな街並みを見て、本当に大都会という感じがする。
けれどこのナムチェより標高があるところは、日本では富士山しかないのだ。第二の高峰北岳は3193mなのだ。野遊、こんな高所の街に立ったのは生まれて初めてだ。

午後早い時間に到着して、このツアーの明日あたりから登場してくる「高所順応午後のご近所ハイキング」はまだないし、今日は自由時間がたっぷりあり、「おのおのがた夕方まで勝手次第、散」。