ヒマラヤ山行(17) 集落 Ⅲ「नाम्चे बजार Namche Bazaar」にて

音に聞く ナムチェバザール。 नाम्चे बजार と書くのよ。
多くの写真家、登山家たちが、ここに暮らす人々を、子供たちを、風景を、動物たちを画像にして人々に伝えてきた。どれも人間味あふれる画像で、野遊は長い間、この集落というか村というか街というか漠然としてつかみにくかった、ヒマラヤの有名地ナムチェバザールを、この目で見たいと思っていた。それは憧れのヒマラヤの山とセットになった思いだった。
あの写真にいたような、かわいい子供たちに会ったらあげようと、小さな箱入りのクッキーをいくつか持ってきた野遊だ。

登山用品、日用品、文具品、何でもお店に並んでいる。カトマンドゥより高度がある分だけ販売物品は高価になっているけれど、まだまだ物価は安い。週末は一大バザールになるそうで、売れ残った物品類は、次のバザールまで倉庫にしまっておく。ほかの村に持って行く場合もあるようだが、それでは労力の無駄使いになるので、せっかく持ってきた物は、置いておいたほうが合理的なのだ。

野遊はこの街の終点まで行ってみたかったので、階段を降り切らずに横ばいして、街の横隅と思われるあたりから、端に沿うように向こうに向かって歩いていくことにした。サーダーが来て、ちょっと途中まで一緒っぽくなって、ついて来てくれそうな感じだったけど、ひとりで歩きたかったので、ありがたいけれど、この、よく気のつくサーダーが同行するのがイヤで、お店に入ったりして振り切った。(ある特定のキッチンボーイだったらイヤじゃなかったかも)(独り言です)

道はユルユル上り坂沿いにお店が続いて、ヤクーが大きな桶に頭を突っ込んで餌を食べていた。道に生えている草を食むだけじゃないのだと知った。よほど興味津々に見てしまったらしく、笑い声に目をあげると、その家の人たちが野遊を見ていた。「おもしろいかい、よかったね」って感じで、両手の親指で「OK,OK」サインをしている。

やがて人家だけになっていき、閑散とした道が続き、人がいなくなった。家と家の間隔が離れ、結構歩く。道路も階段でなく土坂のところもある。人家は、もう青い屋根ではなく、そのままの地肌色。窓は重く暗そうで、人が住んでいるのかわからない。道か庭か、ただの土の家の前を通り過ぎると、お婆さんが窓から顔を出して野遊を見おろしていた。「何しに来たのか」という気持かな。心配させると悪いので、ただの旅行者らしく振る舞った。(どういう振る舞いじゃ^_^;)

犬がいた!薄茶の中型犬だ。ついてくる!追い抜いた!少し行ってはふり向いて待っていて、こっちこっちと案内してくれた。犬はいつだって手伝ってくれる。

眼下に広がる街を眺めると、先ほど出発した地点の真逆に立って地形を見渡せた。来たときの反対横に沿って下っていくと、新たに建設中の建物がいくつかあり、人もいた。野遊を見て、ついてくる人がいた。犬だけじゃなく人もついてくるのかしら。ふり返ると目が合う。別に悪気のなさそうな、ぼうっとした目だけど、野遊が歩き出すとまたついてくるので、速足で街のほうに向かい、人通りの多い見慣れた階段までたどり着いた。

すると犬は「もういいね」って感じで、来た道を戻っていった。まさに「守り犬」(まもりけん)だ。

ところがどの階段も見慣れていて、どれが野遊が行くべきロッジにつながる階段かわからなくなってしまった。そこで優秀な鬼コンダクターの言葉を思い出す。

「迷ったら、0000と言えば必ずだれでも、このロッジの名前を知ってます!」
・・・なんだっけ。あそうだ。で、優しそうなおばさんに聞いてみた。
「ABCフレンドシップホテルはどこですか?」
おばさんはわからなくて、親切にも周囲の人々に聞いてくれた。
「それはきっとADフレンドシップロッジだね」という人がいて、「あ、それだ!」ということで、階段を教えてもらった。
ほんっとうに野遊っていい加減なんだ!
その階段を登って行くと、優秀な鬼コンダクターに出会い、クライアントがたにも出会い、出会った者同士5人で喫茶店に入り、野遊はエスプレッソを注文したがこれが美味で、三口くらいで終わった小さいカップが残念でもっと飲みたかった。(よほどがぶ飲みしたのかしら)

優秀な鬼コンダクターは飲み物のほかにお皿いっぱいのポテトフライを注文して、クライアントから「もうじき夕食なのに?」とか言われて「このくらい全然軽くいけますよ」と言っていた。25歳だそうだけどやっぱり若いんだな〜。食欲がじゃなくて、この言葉が。

野遊はこの街の端から端までほっつき歩いたり喫茶店に入ったりして、子供たちに会ったら渡したいと思っていたクッキーは、ついにその機会を得ず、ダッフルバックに入れられたままになった。
(ナムチェはこの山行の帰りにも寄ったがその節はちょっと切ない思い出があり、それはこの胸に)