ヒマラヤ山行(32)ゴーキョ・ピーク Gokyo.re Ⅲ「ビューティフルビュー」

ryo-rya2014-05-25

快晴。藍一色。「宇宙色の空」と言うらしい。
ゴーキョ・ピークからの景色は、エヴェレストが思ったより近くに、一番高く聳えている。その横(東)にはローツェ。ローツェシャールは肩をそびやかした感じでちょっと後ろ側になっていて、よくわからない。そこからさらに東に目を移すと、マカルーが見える。エヴェレストから向かって左(西)に目を転ずればチョ・オユーが聳えている。

世界第1位、第4位、第5位、第6位の8000m峰だ。それだけではない。チョ・オユーとエヴェレストのちょうど中間あたりに聳えているのが7000mの最高峰、世界第15位のギャチュンカンだ。日本の登山者方には、山野井泰史さんの登山記録『凍』で広く知れ渡った名峰だ。

ゴーキョ・ピークは一気にたくさんの名峰を眺められる絶景ピークだ。
エヴェレストから眺めてマロリーが「わたしの娘」(エヴェレストの愛し子とも)と呼んで名づけられたというプモリも、こんもりと可愛らしく聳えていた。この位置からだとちゃんと身の程をわきまえて、図々しい前歯のような形相を呈していない。エヴェレストの前方に控えているヌプツェは、半分ほど雪を落としていて、黒い山肌に白いタスキ掛けがはっきりと生える、最高のショットを見せてくれていた。ツョラチェ、タウチェはほとんど全身真っ白で、午前の逆光が山襞をわずかピンクに染めている。その下方は触れなば頽れんばかりの純白世界。さらに下方は氷河がヌラヌラヌラとどこまでも。

氷河はずっと上まで行くと、青光りしたヒビだらけの鏡に見える。それがもっともっとずっと向こうまで伸びていて、聳える山々の麓まで届いているように見えた。このまま行ったらあの山々の裾に辿り着く。全くそれこそ省略部分なしのまま、蒼氷を辿る眼がヒマラヤの高峰を登っていく!

入山したときから見てきたタムセルクやアマダブラムが、はるか東後方に、シルエットになって浮かんでいる。特にアマダブラムは上の突起が少し見えるくらいで、野遊なんてクライアントがたがしきりと山座同定しているのを聞いて知った。

蒼氷が輝き
この目で見たいと
あんなに想いつづけてきた
名峰群が展開している
恐怖のような感動


ゴーキョ・ピークの圧巻は、たくさんの名峰群が一斉に眺め渡せることだけではなく、その位置配置のみごとさにもあると思う。何という整然とした画像だろう。芝居は主役が主役であってこそなのだ。

エベレストのわずか下方につつましく控えているヌプツェは、カラパタールからの景色では、エヴェレストを食うようにヌウッと顔をもたげている。(カラパタールの景色は写真でしか知らないけど)ゴーキョよりBCにより近い分、全体像がいびつになって、名峰を生かし合うバランスができていない。と、こんな無防備な言い方をしたらカラパタール大好きな人やヒマラヤ熟達者さんがたに叱られるかもしれないけど。

この旅で野遊が、カラパタール・コースと比べてさんざん迷い、ゴーキョ・コースを選択した理由は二つあって、ひとつがこれ↑。ゴーキョ・ピークの絶景なのだ。 
もうひとつはレンジョパス越えがあるから。ピストンでないコースが好きだったので。言いかえればピストンがあまり好きじゃないのだ。もちろんピストン全面否定ではなく、今流行りの単なるサミット・プッシュの場合が好きになれないだけだが、そんなことも影響してピストンを避けたい意識があった。

当初、カラパタール行きのトレッキングと、どちらにしようか迷ったが、ゴーキョを選んでよかった。
ゴーキョ・ピークには、望んでいたすべてのものがあった。