焼石岳 13 初ストック、出したら不要シーン

地図では川に沿って登っていく箇所があったので、そこに向かって気を引き締めて歩いて行ったが、水場面が多く、なんだかどこもかしこもそこらしい感じの道になってきて、もうどこら辺を歩いているのかわからなくなっていった。
覚悟して最初からショート・スパッツを装着していたが、水だらけ過ぎてロングのほうが良かったかな。でもロングは少し嫌い。でもああ〜また渡渉でしょうか。てかジャブジャブ。

結構緊張度が高まっていたが、リーダーは「あらキノコ」「ミズ(食べられる植物の名)」などとつぶやきながら採集して、いつの間にか殿を歩いている。トップは写真家さんと茨城さんとなった。

水の深い個所に差しかかり、こういうときにストックを使うのだろうと、野遊は立ち止まってザックを下ろし、ストックを取り出した。この間2分ほどだけど、ちーちゃんが先頭に遅れじとどんどん行くので、結構間が開いてしまった。しかしリーダーの姿はまだ見えない。今晩のおかずに熱中しているらしい。

ストックを両手に持って進むと、安心なのか不安なのか実に奇妙な心地だ。足よりも上半身に重きを置いて歩いている気分で、身体で感知する感覚が後退していく。歩行は確実に遅くなっている。

大きな一枚岩の上を狭い歩幅でドキドキ歩き、幅広の川を斜め上方に渡る箇所で、ちーちゃんがサポートされながら渡っている。てことは野遊も自力で渡れないのだろうか。近づいて行く。ザァザァ流れている。岩の距離が遠い。岩と岩の間を、ストック突いて渡ればどうだろうか。
と思っていたら、長靴姿の写真家さんが向こうの岩の上に立って、ストックをこちらに渡しなさいと言う。えっ、だって、今、わざわざザックから取り出したばかりなのに…。ここで使うんじゃないの!?

でも思考も硬直し、そこまでしか考えられず、写真家さんが伸ばす手にストックを渡した。彼は野遊の右手を持って、あっちの岩に飛ぶように指示した。野遊はもう必死。もし野遊が滑ったら、彼も一緒に転ぶから!

それは、なんと怖い行為だろう!!写真家さんは、ただ岩の上に立っているだけだ。どこにもつかまるところがないまま、野遊に手を差し伸べている。水深は、転んでも起きあがれる程度だろうが、流れが速いので重心を失ったら困難かもしれない。野遊がボチャコするのは仕方ないにしても、写真家さんを道連れにしてはならない。野遊は、絶対に失敗してはならないのだ。

滑りませんように!エイッ!跳べた。

(次回は来週の12日)(宮之浦岳に行ってくる)