ヒマラヤポカラトレッキング49「貧困生活と明るさ」

シュレス夫妻は友達のアパートに同居して半年ほどになるそうだ。その前はシュレスの故郷のデウサに住んでいた。それはレディナと結婚してしばらくの間だ。今カトマンドゥに出てきているのは、デウサでは何もかもが不便で、レディナの出産する病院を確保するためだった。

レディナは住んでいる同じ棟の友達と一緒に、一部屋の一角にあるキッチンに立って小麦粉をこねている。それを薄くのばして、卵焼きとハムとポテトを置き、丸める。それをお皿に乗せて野遊に出してくれた。野遊は朝はフジホテルのバイキングで済ませてあるので、もう十分なのだった。まだ午前10時だ。

でも断れずに、半分にすることもできない作りなので、もう死に物狂いという感じで1枚平らげた。シュレスもおいしそうに食べていた。

ほかの友達にもレディナがそれを作ってふるまっていたが、ふと見ると、野遊とシュレスのそれにだけ、卵焼きが入っているのだった。ラストにレディナが食べたのは、残りのポテトが挟んであるだけだった。

野遊は泣きたくなったけど、あんまりみんながワイワイ明るく楽しそうなので、つり込まれて笑っていた。野遊の座っているダブルベッドの背後にたった一枚の窓が大きく仕切られてあり、部屋は明るかった。

近所のおじさんやおばさんものぞきに来て、野遊に遠慮がちに話しかけたり、右手を差し出して握手を求めてくれたりした。そして数分おきくらいに、どっと笑いが起こっていた。

シュレスの仲間は若くて明るくて力強かった。その周囲の大人たちは親しげで温かかった。みなライ族だ。