ヒマラヤポカラトレッキング52「ラストディ」

コビタも野遊を近所のお散歩に連れ出してくれて、一緒に、町が見下ろせる坂道を30分ほど歩いた。コビタは、一見しっかり者で気が強そうだけど、野遊には、いかにも優しく話しかけてくれた。4年前、高校生だった娘のサブは成長して出稼ぎに行っていて、会えなかった。

シュレスのアパートは、真ん中にコンクリートの廊下が走っていて、両側に部屋がいくつか並び、1か所だけ洗い場兼トイレになっている。これを住民たちが共同使用している。

外の草むらも野外トイレのようだ。

はす向かいの1室は、美容院だそうで、女性が独居している。ヘアカット用のチェアと大きな鏡があり、ワゴンには一通りの美容院アイテムが乗っている。そのすぐ後ろに小さなテーブルとベッドがあり、ここの美容院の美容師さんが暮らしているのだ。野遊はここでカットしてもらった。レディナがのぞきに来て、「オオ~エリ子!」と声を上げ、笑った。

 

野遊は彼らに簡単にお金をあげたくないのだ。そうすると切りがなくなることを知っているし、決して彼らのためにならないことも知っている。でも彼らは貧しくて、お金をもらえば助かる。だから同じ住民の住む美容室でヘアカットしてもらったり、何かを勧められるときは、ちゃんと請求額を支払うようにしている。

レディナはランチもたっぷり作ってくれて、ビールも買ってきたが、近所の人たちはこういう時に集って楽しむ習慣があるようで、皆破顔して食していたが、野遊はそれこそ食べ物はもう一切口に入らなかった。

シュレスには、ポーター料金のほかに、支度金、これから学校に行く費用(とシュレスが言っていたから。でも結果は行かなかったようだ)、そしてたっぷりのチップをあげていたので、そのお礼の気持ちかと思う。