流氷旅行 15 終わりの始まり

チョラパスが目に浮かぶ。野遊はチョラパスを越えられるだろうか。
シュレスは野遊が、コンマ、チョラ、レンジョの3パスを狙っているのを知っている。

同行すると言った山じいは、ネパールの大地震で、しばしヒマラヤ入りを保留にした。野遊もあんなに崩れた山道を見ているので、すぐに修復されることはないと知っている。

しかも今年はことさらに雪が多いそうで、コンマパスは腰以上のラッセル、チョラパスはザイルがいる箇所(峠を越えた後の急な下り)があるだろう。凍っていればルートファンデングも困難を極めるだろう。リスクが高すぎる。

そこに野遊の膝疾患が重なり、チョラパスは再度、再再度、未遂に終わるのか。


シュレスは野遊の言うことをよく聞いて努力し、ガイドライセンスを取得した。けれど地震後のネパールに旅行者が減り、トレッキングシーズンにも仕事はわずかしか入らない。

東京オリンピックが近づいてきたら、たくさんのビルの建設工事が始まるので、それまでに日本語を習得していたら、シュレスを推薦してあげようと言ってくれた日ネ親交会の会長氏の言葉に、一条の光明を見てひたすら努力してきたシュレスは、今になって会長氏から「その話は当てにしないでほしい。なかなか思うようにいかないので」と言われ、どうしたらいいのだろう。

今日までシュレスに、他国の劣悪な環境に身を投じないで、待っていてと言い続けてきた野遊はどうしたらいいのだろう。シュレスと向き合って、あんなに一生懸命日本語の勉強したのにね!

シュレスとの物語は、こんなところで終われない。

チョラパスは越えるよりも超えるべきか。野遊がチョラパスを超えたら、シュレスあなたは何を超えますか。

夏が来た。流氷はとっくに溶けて海になった。