野遊・呼吸の世界 4  エヴェレストガイド登山・・・営業登山社

(6)アドベンチャー・コンサルタンツ

10年ひと昔というならば、1996年はひと昔を越える。
ニュージーランド人、ロブ・ホープは、アドベンチャー・コンサルタンツを設立し、エベレスト登山者を募った。世界で一番高額なガイド料だった。(6万5000ドル)けれど、前回も驚くべき確率で、登山者たちを頂上に連れて行った実績があり、応募者は獲得できた。この登山者たちを、彼らは(業界用語で)顧客という。徹しているんだな、商売に。

顧客は富豪とは限らなかった。郵便局員のダグ・ハンセン(米)は、正規の仕事を夜勤にまわし、昼はほかの仕事をして登山費をためた。彼は前回もエヴェレスト行きに応募して、力足らず登頂を断念しているので、今回こそはと燃えていた。ロブは、ダグの参加費用を大幅にオマケしてあげたそうだ。ロブにはそういうところがある。ロブは商売でガイドをやっているが、登山家なので、こんなにエヴェレストの頂上を踏みたいダグの気持を共有できたのだろう。(この共有が、後に悲劇を生む原因のひとつになるのだが)

『INTO THE THIN AIR』の著者、ジョン・クラカワーは、勤務先の会社に費用を持ってもらい、勢いを増しつつあるガイド登山の取材を目的として顧客となった。ロブは、これは我が社の宣伝になるいい顧客と認め、ジョンの会社と話し合って、参加費を安くしている。成功すれば、ジョンが記事にして宣伝になる。

この年の顧客は8人だった。上記の二人のほかには、ざっと富豪の医者とか。テキサス人のベック・ウェザースもそうだ。そして日本の難波康子。彼女は七大陸サミッターを目指していたが、高い山はこういったガイド会社に申し込んで、ガイドつき登山、つまり顧客として登ってきたのだ。彼女は別に富豪というわけではなかったと思うが、普段はまじめな社会人だったようで、長年こつこつと登山貯金をしてきたのだろう。田部井淳子氏の後輩だ。

田部井淳子もこういう登山をしたことがあり、未知の、外国の高峰に登るということは、大変なことなのだろう。それは登ることだけではなく、手続きや、麓に行き着くまでの、すべての、時には理不尽なあらゆる事柄だ。それを会社がまとめてやってくれるのだ。自分は費用を払ってそこへ行けばいい。そうすれば、そこからは、ただ登ればいい。荷物も最小限でいい。あとはガイド社がシェルパを雇って持ってくれる。登山道もロープを張ったり、はしごをかけて面倒をみてくれるのだ。

ガイドを雇うといっても、自分が交渉して連れて行く登山とは違う。こういう場合は、自分がガイドに指示して連れて行くかたちだ。その国の条件で、ガイドを雇えということもある。ガイド社に申し込み、顧客になるのとは内容が違う。