野遊・呼吸の世界 5  信頼関係、ロブとアンディ

(7)高度順応 行っては戻り、期間をかけて

アドベンチャー・コンサルタンツの8人の顧客の平均年齢が高かった。(ちなみに難波康子は47歳)。大名登山みたいな感じで登っていたのだろうと思う。8人は現地で初顔合わせ。これから長い期間寝食を共にして同じ目的に向かって人生を過ごすのだから、できるだけトラブルを避けたいとお互いに思っているに違いなく、彼らは自己紹介などしながら仲良しになっていく。けれど、日ごろから同じ山岳会などで鍛え合い、意志をひとつにして遠征する登山者とは大いに異なる。また、何々遠征隊と銘打って選ばれた登山者団体とも大いに異なる。「もうダメだ、君だけでも頂上を踏んで僕たちの目的を果たせ」などという思いはもちろんなく、みな、自分とガイドの世界だ。自分とシェルパの世界でもない。ロブ・ホールは社長で隊長でガイド長で、顧客の相談役でもあり小間使いでもある。

アンディ・ハリス。彼はアドベンチャー・コンサルタンツの社員だ、つまりロブの部下。顧客、ガイドの中で最も若い(といっても31才)。ロブはもう一人ガイドを雇っていた。マイク・グルーム(豪)だ。マイクがロブの会社の社員かどうかはわからない。ガイドとして雇っただけかもしれない。

もし、登山者同士の本来あるべき密接なるつながりが、この隊にあるとしたなら、それは、ロブとアンディの関係だといえるだろう。部下として出世すべく、アンディはボスに仕えたというより、登山家のアンディが、先輩登山家のロブを尊敬し、踏襲しようとしていたのではないかと思う。ガイド陣が信頼し合っていれば、顧客はこの上なく安心なのだ。マイク・グルームともうまくいっていたようで、3人のガイドは意志の疎通がスムーズだった。これはロブの技量だろう。

さて、ヒマラヤには、ちょっと心配みたいな「高齢的登山団体様」は、頭やお腹やノドが痛くなる者続出の中で、ひとつずつゆっくり立ち直らせてもらい、ロブのたくみな誘導によって、じりっ、じりっと高度をかせいでいったのだ。



(番外)お断り事項

自分は、今、これらの資料を手元に持っていない。すべて自分の記憶の資料から書いているので、なんか間違っていることがあったらどうぞ厳しくチェック入れてください。
今後、調べるべき事柄があったら改めて調べると思うが、今はあえて資料なし状態。なまじ具体的な資料を持つと、難しいことを書いてしまいそう。心のおもむくままに書いていきたい。
今わたしの手元にあるのは、この時期にエベレストを目指した登山者リストと、ロブ隊のベースキャンプでの記念写真のコピー。何の解説もない1枚の写真。顧客とガイド。これから始まる最大の体験を前に、みな明るく微笑んでいる。その輝かしい写真を眺めていると、「もし」「こうだったら」という言葉が自分の胸にあふれてきて、長く見つめるに耐えない。「もし」という言葉って、なんと切ない響きがあるのだろう。