鎌倉駅前の交差点物語(14)本題1

音声キーボードを足指で打ちながら、千一は訴える。少しずつ、少しずつ、表現が成立していく。千一は緊張すると、まぶたが下がってしまうので、何度も、何度も、まぶたを拭かなければならない。「目、目」と彼が言うたび、わたしはまぶたをタオルで拭き、ゆすった。健常者(警察官がた)がそれに合わせる(待つ)のは、自身の大事な時間をくしけずって付き合うこととなるのだ。大変なことなのだ。特に、いつも敏速に動くように習慣づけられている彼らにとって。
時間がどんどん過ぎていく。警察官がたは、隣の人と、話をはじめたりしている。全部の時間をじっとは聞き切れない(待ち切れない)のだろう。でも彼らはこういうことに慣れていないため、途中でほかの会話を交わしていても、千一が打った一音一音が変革されて言葉になるという一瞬を、つまり、肝心なところで聞き耳を立てるタイミングをずらしたりしてしまう。
千一が、「この実体験を語ってください」と、わたしにバトンタッチしたとき、わたしは解説するその前に、思わず語ってしまったことがある。
「千一は、アテトーゼのため、瞼が下がってしまいますので、ゆっくりしか話せません。もどかしいことと思いますが、どうかよろしくおねがいします」
警察官がたは、いっせいにきちんと座りなおすようにして、「了解」「大丈夫ですよ」と、返答してくれた。それからは私語を交わすことなく、彼らは全面的に千一に集中してくれた。
わたしは、鎌倉市で最も大きいスクランブル交差点のうちのひとつである、鎌倉駅前の交差点を、渡る人々の実体験とともに話した。市民はじめ、観光の方々のことも含めて。
そのあと、警察官とわたしの間で、しばらく一問一答が繰り返された。