鎌倉駅前の交差点物語(18)たかが5秒されど5秒の風景

次の日、この交差点を渡った。いつものごとく自分は時間を急いでいた。交差点手前で信号が青になったのを見て、走ってそこに行き、渡った。渡りきってなおもとっとと歩きながら、ふとふり返ると、信号はまだ青だった。その間中、いろいろな人が充分にそこを歩いている姿があった。

なんだかすごく嬉しかった。今日はいい日だぞ〜と思いながらせかせか走り去る。

午後、またこの交差点を渡った。そのときは急いでいなかったので、のんびり渡った。こうして5秒、歩行時間が延びただけで、ずいぶんゆとりを感じた。

べギーバギーを押しているお買い物帰りのお母さん、杖を使っている方、歩行のゆっくりな高齢の方、マップを片手におしゃべりしながら歩く観光客、本当に鎌倉駅前のこの交差点は、こういう人々でいっぱいなのだと改めて思った。

こういう人々が、途中で急がず、最後まで安心して渡っている光景を、わたしは、この、歩行時間が延びた初日に見たので、今までとの差がはっきりわかった。

また、さして不便も感じていなかった自分が、その便利さ、安堵を体感していたのにもびっくりした。

弱いものに優しい世の中は、強い者にも優しい世の中だ。障がいのある人に優しい道は、健常者にも優しい道なのだった。

「みんな〜、この交差点って、いつもと違うでしょ、渡りやすくなったでしょ、5秒、伸びたんですよ〜」と、叫びたい衝動にかられながら、(まさかそんなことできないよね^_^;)わたしはしばらくそこに立っていた。