ミヤマキリシマ山行(2)出逢いは三俣山荘

重連峰には三俣山というのがある。「みまたやま」と呼ぶ。さて「三俣山荘」とは、北アルプス中央部の三俣蓮華岳の裾に建つ山荘のことで、「みつまた山荘」と呼ぶ。

昨年7月、野遊はこの山荘で、見知らぬ登山者に話しかけられた。彼らは3人で来ていた。九州から来たという。ひととき談話した。

次の日も雨、どうしようかと迷っているうちに晴れてきて、8時過ぎ、野遊は遅い出発をした。もう小屋発のだれにも会わないだろうと思っていたところ、双六小屋に着くと、昨日の3人組が休んでいたのだ。あれまあと懐かしがり(?)、小屋前の気持のいい広場で、一緒にカレーライスを食した。まだ10時過ぎだというのに、6時の朝食はここまでの歩きですっかりこなれていたのだな^_^;

彼らはこれから笠が岳に向かうという。野遊は鏡平を経て新穂高なので、遅い出発でもいいが、この時間で、笠に行くのはちょっと大変だなと思った。それに三俣山荘発では、1日以上の行程だし。

そのときだ。彼らの内の一人が、お国自慢をした。
「九州の山もいいですよ。久住山のミヤマキリシマを知っていますか」
するとあとの二人も口をそろえて「久住山」を誇らしげに誉めた。 

彼らの嬉しそうな、輝く表情を見て、野遊は、地元の山をこんなに手放しで誇れる人を、「いいなあ!」と思った。また、こんなに誇れる久住山を「いいなあ!」と思った。

「是非いらっしゃい。案内しますよ」
「いつか行きたいと思います」
「ミヤマキリシマは6月に咲くから、では来年の6月に」

山の妖気の真ん中で、山の不思議に包まれて、思わず約束してしまったのだった。双六カレーのテーブルを囲みながら。

そして彼らは元気に笠が岳に向かって出発して行った。大きなザックを背負って。

・・・そうだ。そういえば彼らは「三俣山荘」を「みまた山荘」と呼んでいた。