朝日連峰縦走(8)三角池散策

背の高いブナの樹林帯を登っていく。左手に続く渓流が、だんだん下がっていく。橋を渡り人気のない道は続いていく。七つ滝は名所のようだが、滝見物の人などいなかった。むしろ荒れていて、腐った落ち葉とクモの巣だらけという感じで、とても分け入っていく気持になれず、残念だけどそのまま通過した。いい観光地になるのに地味だなあ・・・

道は次第に勾配を増し、渓流が遠ざかる。登りでも下りでも、何度も何度も、このバージョンを体験してきた。登りつつあるな、下りつつあるなという実感。
山は基本的に、みんな同じ顔を持つ。

やがてつづら登りになっていき、上方から光が射してくる。数人、下山者に会った。
野遊はゆっくり歩いている。12時過ぎに30分ほどランチタイムをとった。

13:30、大鳥池小屋に着いた。7月下旬から8月中旬の、夏だけ入っている小屋番の藤井氏が、ガイドブックに紹介されてあるままの穏やかな表情で迎えてくれた。
「始発バスに、もう一人乗っていたでしょう。彼は早くに着いて、以東まで行きましたよ。この先は今までとは違って厳しいので、今から行ったら、途中で引き返すことになりますよ」なな、なにをおどすのですか、泊まりますよ・・・(~_~)

小屋は手入れが行き届いていてきれいだった。やがツアー5人組と、マイカー二人組が到着した。今夜はこれだけだそうだ。朝日初体験の野遊は、人数の少なさに驚いた。

15時、藤井氏に三角池(みすまいけ)に行ってきますと言い、出かけた。
小屋の下手をしばし歩き、やがて暗い山道が続く。
藤井氏に、途中何箇所か靴が埋まるような泥道があると言われたが、お天気がよかったからか、それほどでもなかった。泥グチヤ道もあり、重なった枯葉が湿ったままズルズルしていたが、野遊の靴はすごく「いい子」で、ちゃんと歩かせてくれた。

ただ、人があまり歩かないらしく、荒れていた。30分ほど行くとホワッと池に出た。これが三角池か!コウホネの葉が無数に浮いていた。これがコウホネか!
池は静まり返り、風が吹くとキラキラとさざ波が立った。
みなさん通過が多くて立ち寄らないけれど、美しい三角池を散策して行ってくださいねと、何かの本に書いてあった。しばらく見とれていた。
帰りは往きよりずっと早く戻れた。右手に大鳥池が見え出すとホッとしたものだ。
ひとりというのは、無条件にコワイ。
夕方、小屋の前の広場で、朝購入したお弁当を食べた。朝日連峰はテントは禁止だそうだが、何箇所か、許可されている場所があるのだ。小屋が混雑したときなどに限るとか。そこらへんはゆるいそうだが。登山者に「意識」があればOKなのだろう。

16時ごろから騒いでいたツアー5人組は、18時を過ぎても階下で宴会を続けている。
顧客3名(女性)はうるさくないが、ガイド2名(男性)が酔って張りあげる声が二階にもろに響き、ジュージューと食べ物を焼く臭いもあがってくる。二人組は早立ちらしく、シュラフにもぐり何度も寝返りを打っていた。
18時50分、野遊は思い切って階下に降りて行った。

「お楽しみのところ申し訳ありませんが、7時になったら、もう少し声を静めていただけますか」と丁重に頼んだが、ガイド、明らかにムッとして「じゃ、7時になったら電気でもつけてくれますか」と言い、重ねて「そもそも7時ってのはあんたが決めた時間だろうが」と絡まれてしまった。酔って呂律もまわらない。ガイドとしての立場上、顧客たちの前で注意されたのが、気に触ったのかもしれない。
7時になったらなどと配慮しないで、「うるさいので静かにしてください」と言えばよかったな。どこのツアーだろ。このことについてはあまり思い出したくない。
疲れているのになかなか寝つけなかった。