朝日連峰縦走(16)寒江三山を超える

寒江山の頂上は立派な標識もあり、安堵感があった。素晴らしい景色を眺めおろしながらラリホー!と叫んだ。先ほどの彼らはもう姿が見えない。狐穴小屋はここからは山陰になっていて見えないが、そちらに向かっているのだろう。あの速度だ、もう着くころだろう。
15:00をまわっている。急ごう。エネルギーを全開にするときだと思った。
もう一山、南寒江山を超えれば終わるのだ。

閑話休題〈寒江山、これは「カンコウザン」と呼ぶ。その麓近くに寒河江という大きな市があるけど、これはむろん「サガエ」と呼ぶ。寒江山の名の由来は寒河江と関係があるという説と、東方に流れるガッコ沢からきたという説がある〉

南寒江山を越した。もう少しだ。歩くために来ているのに、歩きながら、到着して休みたい気持はなんだ? 今、この身が浴びている喜びを、こうして現実に浴びている真っ最中の喜びを、早く通過したいとは? なんと不思議な「肉体現象」。
もう少しと思ったわりにはなかなか着かない。大きい。広い。長い。観念して歩くのみ。歩かない歩きます歩く歩くとき歩けば歩け歩こう。歩くしかない。歩いた。

足下に小屋が見えた。喜びにわななくほどだった。全部で歩こう全部で。あそこまでなのだ。竜の小屋さん、こんにちは、はじめまして。会いにきました愛にきました野遊です。何十年越しの思いを秘めて。あなたの野で遊ばせてください。命がけで遊びます。竜の小屋さん、この朝日連峰の真っただ中で、野遊、あなたに「呼びかけ」飛ばします。受け取ってくれますか。

竜の小屋を目指して♪歩いて♪歩いて♪・・・あれ。・・・消えた。竜の小屋が。???
たしかに見つめた竜門山小屋。はっきりと門も、梯子も、窓も見えた。屋根も、壁も見えた。でも消えた。・・・蜃気楼だったのか。とまでは思わない。

山肌をどこまでも行く。無心で歩く。花は北峰より少なく、色あせてきている。
もう南に入っているのだ。優しい道もある。そこはトレイルランか。
がんばれぇがんばれぇと声だけで、ダメ走れない。足があがらない。

再び目の前に、竜の小屋が現れた。今度こそ信じていい。
野遊の足元からじかに、小屋への道が続いている。
それはしっかりといざなわれるような、きれいなプロムナードだった。