朝日連峰 この秋 16 「オマケ登山」

天狗さんに挨拶した。そしたらな、な、なんと、なんと!天狗さん、野遊を見て、「ああ、志田さんの彼女ね」と言う。
チガイマス!と言うと、わかってるわかってますよと笑い、わ、わ、わ、忘れちゃったのですか、と聞くと、覚えてる覚えてますよとまた笑う。なんだかそっけない。7月、天狗さんは精神的にも野遊を保護してくれた。そして「これにめげず、また来てください」と言われ、約束していたのに・・・

今にして思うに、今回は、野遊は人もあろうにこの山岳会の熟達者にサポートされて歩いた。そんなの歩いただけだ、野遊は野遊でなく、ただのオマケではないかと、山の天狗は言いたかったのだろうか。

10月23日(日)、下山時は、山じいは、このくらいの速度で歩けということか、どんどん行って姿が見えなくなる。どってそんなに急ぐのでしょうネ。野遊は間違えて谷筋をそのまま下ってしまった。よく見れば、その先の道があったのに。野遊はしょっちゅうやる。初体験は丹沢の柏木林道で、広いザラ道を横に渡って行くのに、そのまま山道を進んで行って、困って引き返したことから始まる。最近は北アの高天原から黒部の源流に行く道で、向こうにある登山道を見損なって、道沿いに登ってしまった。あの光が漏れるところまで、と登ってから引き返し、地図をよく見れば、その先に道があった。

今回は、ヘンだと感じたとき、山じいの名を呼んで待ってしまった。山じいは助けてくれた。上から仁王立ちして、ここを登ってきなさいと言った。直角三角形の定規の、最も短い線を辿れということだ。戻るより、登ればすぐだったから。登ろうとしたら登れない。足なんてどこも引っかからない、道なき道ってすごいんだな。「登れない」と言っても、仁王立ちしているだけで、なんにもしてくれない。なんにもしてくれないんならしょうがない、自分で何とかしようと、もう肘も膝も全部使ってよじ登った。

やっと正道に戻って歩きだすと、山じいがひとり笑いしている。「自分のことは自分でするんだよ」とか言っている。はぁ〜昔の山岳部の先輩みたいだ〜十回聞いたはず〜野遊は〜野遊も後輩に十回は言った〜この主体性のなさはなんだ〜野遊は日常でも甘ったれで〜・・・

山じいを友達みたいにして共同で登ればいいものを、でもとても同等で太刀打ちできないよ。
それが久々に心地よく、無意識のうちに最初から受身になっちゃった野遊は〜・・・「オマケ」。天狗さんはお見通しですね。