朝日連峰北方 14 オバラメキ

ryo-rya2012-10-18

歩きながら、前方後方とも同じ顔色の道なので、もし野遊が昨年の夏のように疲労困憊していたなら、どちらを向いて歩いて行けばいいのかわからなくなってしまうだろう。昨年方向感覚がヘンになってしまったことを思い出して、ここでそれをやってはおしまいよと、気を引き締めた。

いつのまにか竜ヶ岳は見えなくなっている。ずいぶん来たのだな、二ツ石山はもうすぐだ。以東岳が右手真横に大きく聳えている。残雪が細々と襞を染めて、細かい縞模様の山肌が美しい。二ツ石山に到着10:00。

そこから2時間ほど同じような道を、アップダウンを繰り返しながらずんずん進んでいくと、前方が開けてきた。右手はるか向こうに、つんと尖った頂が見える。高松峰だ。

などと思って歩く野遊の目に、何とも言えない岩が飛び込んできた。左下は崖になっていて、その崖の模様がすごい。モコモコゴテゴテと、捏ねた泥粘土を無造作に貼って、貼って、貼っていったような岩壁だ。思わず立ち止まった。

歩いて行ったらその岩壁は足下になってしまう。野遊は座った。休憩だ。地図を広げた。「あ、これがオバラメキ!」これがオバラメキか。昨年はガスっていて見えなかった。それに反対方向だったので、気づかなかったのかもしれない。

ドライフルーツを食べながら、いつまでも見つめた。岩壁というのは不思議だ。こんなに眺めているのに、全然眺め足りない。同じところをじっと見ている。やがて目線をずらして、その上を見る。少しずつ、目が岩のどこかを触っていく。

オバラメキはかわいい。野放図な坊やみたいだ。日暮れ沢から入ってオバラメキ沢を遡行する登山者がいるというが、この岩を攀じるのだろうか。野遊は40分も座り込みをした。もう行かなければ。でもここを立ち去ったら、もうオバラメキを眺められないのだ。いつかまたこの道を歩く日があるだろうか。13:00。立ち去り難い気持をここに残して、野遊は歩きはじめた。さよならありがとう、元気でいてね、かわいい天狗坊や。

オバラメキの上を歩くと、今座っていたところがコバラメキだったとわかる。思い切り覗き込んでから、高松峰に登って行った。ここは岩場道だ。ここから今日の後半戦と思おう。さあ行くぞ、狐穴へ!