裏剱(29)衝突?

今日、添乗員K氏は夕食に出てこなかった。酔いつぶれて寝ているとかいうことだった。実際はそうではなくて、何か気分を害して出てこないのではないかと言う人もいた。野遊はその場を見ていないのでここは不明だ。


夜、ガイドとK氏の口論が筒抜けだった。内容はこの登山についてであって、彼らは我々のために言い争っているのだ。申しわけない。

そのうち目覚まし時計のことでもめだし、K氏はガイドが差し出す目覚まし時計を拒絶して「目ざましなんかいらない。明日はどんなことがあっても必ず1時間早くに起きる」
K氏と出発する予定の参加者が、心を痛めて目に涙を浮かべている。

昨晩のことを思い出す。仙人池小屋で、K氏は男性参加者たちの部屋に自分の布団を敷いてしまい、ガイドが迎えに行って「おかしいよ、俺たちの部屋で寝ろよ」と言っていた。男性参加者の部屋も女性同様人数ギリギリで、K氏はそこに無理やり入って蒲団をかぶって返事をしない。スタッフたちの部屋のほうがスペースがあるのに。

それは女性部屋からよく見える位置で、男性群が笑みを浮かべながらK氏を迎え入れている様子が見てとれた。

参加者たちにとって山行中は、添乗員とガイドは両親みたいなもので、親たちに亀裂が生じていたら不安なのだ。彼らはそれを承知していて、我々に不安を抱かせまいと、たがいに気遣い合ってくれていたのだが、どうしようもなくなってきたのだろう。

そのうち静かになり、就寝時間が来た。