裏剱(36)走り去る風景

登山靴をパッキングして、小さなポシェットを手に持った。
ロッコ電車に乗って宇奈月へ。ここに見学に来る旅行者たちのように、野遊もいつか、旅行鞄を持って来ようか。
それとも登山者として、下の廊下を歩いてみようか。

野遊、いつまで山に登れるだろうか。トロッコ電車で風に吹かれながら、走り去る風景が、自分の人生のような気がした。

山に向かって「ありがとう、ごきげんよう、また来ます」と言っていた野遊が、「ありがとう、さようなら、さようなら」と言うようになったのは、いつのころからだろうか・・・

宇奈月で待っているバスに乗車して、途中で温泉に寄り、親不知で下車するガイドを拍手で送り、あとは一路新宿へ。