十勝岳 8 百名山百座目の祝福

頂上への道はきれいに続き見晴らしもいい。登りはじめに「あんな高いところに噴煙が。あそこまで行くのか…」と思っていたが、その噴煙は右手の山稜の向こう側から上がっていて、ほぼ目線まで来ている。その噴煙が目線からじりじりと下がっていく。そして足下になっていった。
あと一登りだ。ちょっと急登。ここで列が少し乱れ、遅れる人が出てきた。中でも特に遅れる人は二段構えのような感じで中あきとなっていった。

11時、十勝岳頂上に着く。大雪山の山容が広くどこまでも見渡せた。美瑛岳、旭岳、トムラウシ岳、それらの稜線はここから眺めるとなだらかで美しい。美瑛岳に行きたかったな、旭岳へと縦走したかったな、トムラウシ岳までの縦走路はどんななのだろうなどとあふれる感慨の中で思った。何しろ野遊は北海道の山は無知で、ざっとしかわからないのだ。

しばらくすると、遅れ組の一行もやって来た。そちら側の岩に行って、「がんばれ〜」とエールを飛ばす。k氏には、百座目の感激の一瞬が待ち受けている。遅れ組の中でも一人、大きく遅れてしまった参加者がいて、その後ろを護衛するように歩くk氏の顔が、こちらを見あげてほころんでいる。やがてk氏到着、みんなで拍手で迎えた。おめでとう百名山

すると、なんと、このツアーの中に、もう二名、これが百座目という参加者がいた。一人は元気な可愛い感じのご婦人で、一人はこれも元気なおじさんで、おじさんはリュックから大きな布の旗を取り出して広げた。この旗には日本列島が刺しゅうされてあり、百ヵ所に丸印、「日本百名山登頂記念」と書かれてある。彼の奥さんが作ってくれたそうだ。

英雄3人がその布(旗)の後ろに立って記念撮影。拍手、拍手。

見るとガイド氏はにこやかな表情ではあるが、コメントもなく、心はどことなく白けていた感じ。

そういえばこのツアー、百名山ツアーというタイトルがついていたかな、「目指せ百名山」のツアーでもあるのだった。
それはツアー会社のキャッチコピーで、これにつられて参加する人もいる。そして本当に百座登ってしまう人もいる。
あとで聞いたら「軽く1000万円は超える」そうだ。
あまり縦走はなく、一座めがけてのショート・カットのピストン登山の場合が多い。
周辺の山もろくに知らず、ただ山名だけ「ここに登った!」。
ルートを聞かれても「??」(そりゃ麓ギリギリまでバスだし、第一「連れて行ってもらう」だけなので、さもありなん)


けれど山への姿勢は人それぞれで、彼らは彼らの中での、今後の自信や勇気につながり、それは自分への勲章なのだ。
みんなが喜んでいると、野遊も無条件に嬉しくなって祝福したくなるのだった。

山頂で沸き起こった祝福嵐の片隅に無言で立っていた、 ガイド氏のちょっと悲しそうな笑顔が心に残った。