ヒマラヤ山行 (6)仲間たち

このトレック隊は11人のクライアント(内女性2人、男性9人)のために実施される。

このカスタマーがたはいわゆる登山家ではなく登山者だ。時間の融通がついて何かできるのなら、山を歩きたいな、山を眺めたいなという人たちである。
年に250回は登山してますという山好きを通り越したすごい人とか、(年に250回ってどういう登山なのだろうね)自分は120回くらいだがとか言うすごい人もいて、海外登山をカウントし切れないほどやっている人とか、ツアー専科で日本百名山を済ませたという人とか、野遊なんか海外登山も初めてだし東南アジアも初めてなんて彼らから見ると珍しい存在だったのではないかな。少なくとも皆さんツアー慣れしているようで静かでテキパキしていて紳士的だ。

この11人をゴーキョピークに連れて行ってレンジョパスを越えさせるために、日本からコンダクター1名、現地のシェルパはサーダーとコック長とキッチンボーイが4名、それにポーターが6名。我々クライアントとスタッフの人数と同数くらいだ。

ルクラに降り立ち、小さな待合室を出ると、そこに上記の仲間が立っていた。これから2週間、山中行動を共にするのだ。なんかエヴェレスト登山隊みたいね。ワクワク。

コンダクターが一行に紹介する。シェルパがたは、だれも口を開かないまま突っ立っていた。
何しろ日数分の所帯道具を担いで行くのだから、クライアントひとりにつき15キロのダッフルバックに入った荷物をポーターが2個分と、それ以外の荷も縛りあげて一人30〜50キロくらい持つようだ。この重量は普通らしい。もっと持つシェルパは100キロも超すそうだ。クライアントはその日の水や行動食や雨具などを持つだけでいい。
それはまあどこの旅行会社でもヒマラヤとかの場合はこんなものらしいけど、恵まれた大名旅行ではある。

サーダーとコック長は空身で歩く。ポーターに荷を持たせているようだ。彼らは歩行中は「いわゆるシェルパ」で、我々の先頭と殿を歩く。中に2名だけ、先頭も殿も指名されることなく、真ん中を歩くシェルパがいた。その2名は二十歳前後の年端のいかぬキッチンボーイで、自分のザックをポーターに持たせずに担いでいた。

野遊は自分のダッフルバックを開けてペットボトルを取り出し、締めようとしたがバックルが硬くてなかなか締まらなくて、モタモタしていると、遠くにいたシェルパが1人、影のようにすっと近寄ってバックルを締めてくれた。そして跳び退るように元の位置に戻った。・・・これがシェルパか。

そのシェルパはだれだったのだろう、そのときはまだ名前も覚えていなかったけれど、野遊はずっと後になって、あのとき駆け寄ってバックルを締めてくれたシェルパはだれだったのだろうと何度も思った。ずっと、あのときの映像をまさぐったものだ。