ヒマラヤ山行(18) 不本意ながらトイレの話 Ⅰ「ジゴクノトイレ」

野遊にとって、このヒマラヤ山行でトイレ問題は、押しも押されぬトップに躍り出ているほどの重要な部分となった。

あのジゴクノトイレに、何度うなされたかわからない。今も夢に見る。

とにかくペーパーのない世界なのだ。どんなトイレかは、もう気持悪くて具体的に書きたくないので書かない。それでは参考にならないけれど、もしどなたか知りたかったら、ネットで調べれば出てくるだろうので。

でもどういうトイレであっても、使用する人々が、次の人のことを思って、丁寧に振る舞えば随分違ってくるのだが、どうせこういう世界なのだと割り切りのいい客が多いのだ。もろにその被害を浴びるのは女性であってあああ〜病む!

ペーパーをたくさん用意していたが足りなくなった。使用する前に掃除しなけりゃならない。だって女性は男性と違って、立ったまま使用しないから、どうしても接触部分を余儀なくされ、そこが汚物にまみれていたら、トイレぺで掃除しなけりゃならんのだ。本当は拭き取るだけでなく、消毒したいけれどそれは目をつむるとしても、ペーパーはどんどん減っていく。布で拭いても洗えないから!

ロッジで二度、ロールペーパーを買い足した。上に行くほど価格は上がって、宿泊費よりもディナー代よりも紙質の粗末な薄い1ロールのほうが高い。信じられる?宿泊費よりもロールペーパー1巻きのほうが高いのよ。それもすぐになくなっちゃうような、少なくて固い紙。

日ごろから不眠症の野遊は、部屋の寒さや不自由さから、疲労していても神経が冴えて睡眠に入れず、例によって悶々と一夜を明かす。一睡もできなかった日があり、その夜は。

寝ようとする。咳込む。水を飲む。トイレに行きたくなる。恐怖心。我慢。気になる!トイレに行く。開きにくい部屋のドアーをギシ〜ッと開け、ベニヤ1枚のお隣さん方に迷惑にならないように、しょっちゅうトイレに行くのがうるさいと申しわけないので、息を詰めてそうっと出て行くのだ。

そして苦悩のトイレタイム。汚さだけでなく、固いロックをかけるのに相当時間を費やしたり!体は冷え、すっかり目が覚めてしまう。

部屋に戻ると体を温めようと必死。温まれば寝られると必死。温まる前に咳が出る。水を飲む。トイレ。この繰り返しで夜が明けた。

不眠で歩くのはどっと疲れる。