ヒマラヤ山行 (26)高度でゼーハー

ロッジでは息苦しくはないが、行動すると苦しくなってくる。
技術的に困難なことはなく、大きな荷を背負ったポーターやゾッキョたちも通るただの山道なのに、わずか登りがかかると、にわかに息があがるのだ。
固い空気の中に顔を突っ込んでいるような感じ。

思い切り呼吸すると少し楽になる。深呼吸しながら歩く。ゼーハーゼーハー。休憩時間に岩につかまってゼーハーやっていると、優秀な鬼コンダクターが「マスク取って」と言った。あんなにマスクしてくださいよと言っていたのに。「もう雪道なんだからマスク要らないでしょ」と。あ、そうでしたね・・・(^_^;)

と、マスクをはずしたら呼吸は楽になったが、1ピッチで鼻の頭と唇の上が赤くなってヒリヒリ。雪焼けか日焼けか、空中濃度が違う。

休憩タイムは長くない。「寒くなるから出発しましょう」と、我らが鬼コンは手に、今しゃがんで作った雪玉を持って言う。まるでご近所ハイクのようなさりげなさ。

ところで鬼コンは過去に、ダイアモクスを試飲したことがあるそうだが、自分がどう変わったか別に何も感じなかったそうだ。さすが鬼コン。


でも不思議だなあ。野遊、本当に苦しかったのだろうか。今、自分の部屋でこうしていると、あのときの苦しみ方は大げさだったのではないかという気がしてくるのだ。喉元過ぎれば忘れるということか。

野遊の知人がたのヒマラヤトレックの報告書に、こういう文章がある。

Y氏「(ゴーキョ)呼吸が苦しい。少しでも急ぐと、胸が痛い。〝ビスターリ、ビスターリ〟だ」「足の動きに合わせて大きく吸い、そして大きく吐く。超スローペースで高度を稼ぐ」

E氏「(カラパタール)標高差470m、日本の山であれば2時間もあれば登れる高度差だ。しかもゆるい登りだ。しかし登り始めると5000mを越えた登りでは、一歩登るごとに息が切れる。女性陣は最後の急登はポーターたちに抱えながらの登りとなり、山頂に着いた時は感激のあまり子供のように涙を流していた」

・・・やっぱり苦しいのだ。