焼石岳 19 無償の情熱

10月5日(月)晴れ。
今朝は昨夜のカレーを温めなおして、朝からカレーご飯と、いろいろなお惣菜で、おいしく朝食をいただいた。リーダーの手料理は素朴な味わいでおいしい。男の人たちが彼女を慕うのは、胃袋をつかまれてしまったこともあるのではないかな。そして何もしなくてもコーヒーまで飲めて、王子様みたいにのんびりできて、さて出発となると、彼女づきの近衛兵のように立ち働き、そこで自己表現の場を得る。その収穫は、焼石岳に向けられる。ここで彼女と彼らの絶対なる不文律が成立しているのだろう。

何て書きながら実は野遊、もう胸がいっぱいで、涙が出そうなんだ。こんな文章に変えてしまうのはもったいないような、言葉では言えない世界なんだ。言えない部分は野遊の心の奥にしまっておこう。

さて、朝から思わぬ雨模様で、リーダーとちーちゃんと野遊は、昨夜からの宴の後片づけや掃除で、結構忙しかった。Sさんは平日なので仕事に出るため、早朝から一人で下山、写真家さんと茨城さんは、横岳の道を整備しに行っていた。やがて雨が小降りになり、小屋の掃除も済んだので、雨具姿で、リーダーと一緒に横岳に向かった。

昨日降りてきた道の途中から入る登山道を登っていくと、ブイィン、ブイィンと、茨城さんが草を刈る音がしてきた。もっと登っていくと、写真家さんが道にかぶさる太い木の枝をノコギリで切っていた。野遊も手伝った。(あいえ、お邪魔させていただいた^^;)

こうして、地図には道も書かれていない横岳に、行けるようになるのだな。地元の人たちは、休暇をこの焼石岳、おらが山に向けて、何度でも登りに来るのだ。何度でも逢いに、何度でも愛しに来るのだ。横岳に道がついたら、では次はここに登ろうと思うだろう。

リーダーはじめこの仲間たちは、みんながこの山に来られるように、日々心を砕き、時間と労力をかけているのだ。地元の人々にだけではなく、野遊たちみたいな県外、地方外の人々にも、この山に来たいならどうぞ、できるだけ来やすいようにしましょうと、今できる作業に精を出しているのだ。

彼らはボランティアですと明言する。地元山岳会の仲間のようで、なんとなく理解できる。リーダーは何かの副会長(たぶん、その山岳会の)とかで、会長はほかにおられるようだ。
リーダーは焼石岳の登山道整備か、無人小屋の金、銀明水小屋を世話する係に任命されているのか、どうも野遊にはよくわからないが、もしこのことで何らかの報酬があるのだとしても、基本的には「無償の情熱」だろう。

今日は新幹線に乗って帰京しなければならないので、横岳を早々引きあげ、銀明水小屋で下山準備をして、中沼登山口に下った。お天気はおだやかに回復していた。

(次回は焼石岳最終章です)