流氷旅行 16 喜びが動き出す

大海原を流れてくる流氷を、ひとつひとつ、手で温めているようなものね。
一片の流氷だって溶けないよね、そんなことしても。
はじっこがちょっと丸くなりかけたくらいで、今日が終わってしまう。
あとからあとから、流氷が押し寄せてきているのに。

手でやっても追いつかない。海がぬるまなければ。海は、ぬるむことを忘れている。
どうやって海に知らせたらいいのだろう。
歌を忘れたカナリアをあやすように、海に語りかけていく。
その間も、手を休めずに流氷を温めていこう。
手が凍らないように気をつけて。

流氷は、目でも溶けるかもしれない。
手で溶かすような些細な行為を続けるのなら、目でも溶かしていこうかしら。
じっと見つめ、感じてみよう。

太陽の力も借りよう。風の力も借りよう。雨の力も借りよう。
わずかずつ、流れが出てきた。
わずかずつ、この流れに、野遊の中の流氷が乗っていく。
喜びが静かに動き出す。
関東の梅雨はもう少しで明けるようだ。
夏休みだ。