秋のヒマラヤトレッキング 52 バンダーのおばあさんふたり

バンダーは街で、道は平らになっている。服や食べ物を売っている。サントスはひとり息子のウップソにおもちゃや服などを買った。まわりの現地民たちは1〜2時間を歩いてこの街に買い物に来るのだった。
このロッジの食堂の横の部屋で、おばあさんが二人座っているのだが、いつもじっと座っていて、まるでゾッキョのようだ。二人はこのロッジの夫婦のそれぞれの母親だろう。見た目より若いのではないかと思うが、なんかもう、ただの残骸のような存在に見えた。時々こういう高齢男女がロッジにいて、じっと座ったままだ。全身汚れていて、もう生涯洗わないといった感じだ。若いころはさぞかし働いたのだろう。

野遊はキャンディの包みを開いて、おばあさんの口に入れてあげた。もう一人のおばあさんが、餌を待つ鳥みたいにしていた。でも甘いものが口に入ると、2人ともニッコリした。高齢者は偉い人たちだから、敬意を以って親切にした。

実は包みを開いて口に入れてあげたのは、以前ネリバザールで、隅の椅子でじっと座って、瞬きもせずに野遊を見つめているおばあさんにキャンディを手渡したら、おばあさんは包みごと口に入れてしまったからなのだ。

夕食は相変わらずのダルバートで、もう美味しくも何ともない。
インド人男女が隣の部屋に宿泊したが、彼らのトイレの使い方が、発狂するほど汚くて、人間とは思えない。
こういうことがいちいちネガティブに感じ取れてしまうのも、野遊が疲れすぎているからだ。ムリして歩いてきたこの3週間。早く終わりたい。

もっといろんなことがあり、そのたびに驚いたり不快だったり、ちょっぴり嬉しかったりしたけれど、みんな旅のかなたにかすんでいる。