千の記憶(3)潜在意識

この曾祖母は母の祖母。明治育ちの士族の娘で、厳しくしつけられたそうだ。聡明で、なかなかきつい御仁であったとか。母は長女だったので家を継ぐはずが、恋愛結婚して苗字を変えた。

エリが幼い頃はこの曾祖母と叔母(母の妹)も同居していた時期があったという。昭和26年ころ、いわゆる戦後と呼ばれる時代。母の母(エリの祖母)は、最初の夫(海軍の軍人)と死別してから学者の夫に嫁いでいる。曾祖母がそちらに住まず、孫娘に跡を継がせようとして、このような形になったらしい。

(エリには事情がよくわからん。アネは語れると思う)

曾祖母と叔母、父母とアネ、マチ、エリの3姉妹の時代。

父は出かけて、母も何の用事か、生活に追われて出かけなくてはならない時、赤ちゃんのエリは曾祖母に預けられ。エリがギャン泣きしても、曾祖母は疲れていると面倒をみず、かんしゃくを起こしたりしたそうで、それが続き、ある日叔母が母に告げたことがあったとか。次の日、母はエリをおんぶり紐でおぶって出かけたというお話。

丸々した赤ちゃんをおぶって、おむつも持参して、母はどんなに大変だったことか。おぶわれたままの赤ちゃんも大変だっただろう。家で大泣きし続けるのと、どちらが より辛いだろう。

ずっと大泣きし続けるって、赤ちゃんはどんな気持ちなのだろう。何を訴えていたのだろう。そういうことが続くと、その子の心にどんな影響があるのだろう。覚えていなくても、どこかの部分がその苦痛を知っているのか。

幸か不幸か、曾祖母にそのように扱われたことを覚えていないし、優しくしてもらったことも覚えていない。けれど何かの折に、疼くものがある。

でもやっぱり、全面的にはエリの面倒をみきれず、母から預かり切れなかったにしても、エリをこんなにかわいがってくれた曾祖母は、エリには幸せのほうが多かっただろうと思う。

もう今、曾祖母の話をする人はいないし、思い出すこともほぼないのに、この「最初の記憶」でゆくりなくも、初めて語った。エリのひいばあば。