千の記憶(14)七人家族になる
エリの弟のボクが生まれたのは昭和29年7月27日、良いお天気の日だった。エリが母やアネにそそのかされて、門の横に立ち、通行する人に「エーだ、イーだ、ポン助だ」と大きな声を上げたそのおうちの庭で、子供たち4人はアネの指揮の下、おとなしくおりこうさんに遊んでいた。アネは母の状態を掌握していて、3人の妹を長時間よく指揮した。
父が門から入ってきた。産婆さんを呼びに行ったのだった。「男の子が生まれた」と姉が告げたその時、父は喜んで1メートルほど垂直に飛び上がったと言われている。
エリもそこに居たので覚えているのだが、あんまりその話がいつまでも語られるので、もう本当がエリが記憶していることなのか、思い込んでいるのか定かではなくなっている。
父はすぐまた出て行って、やがて大きなたらいを担いで戻ってきた。新しいたらいで産湯を使わせようと思ったのだ。やがて産婆さんが来た。
母はその前にボクを出産していたのだから、ひとりで産んだのだ。