マナスルBC ヘリトレッキング 17 追いつこうとしないで

呼吸して血中酸素飽和度を上げたらハァハァいう息苦しさから解放されて、思わず勢いよく足を前に出すと、ゆうさん「急がないで」「追いつこうとしないで」と言う。だって先を行く仲間たちに追いつこうとしてしまうでしょ、歩けるのだから。でもゆうさんは「靴の長さより歩幅を広げないで」と言う。それではほんのわずかしか進めない。ゆうさんは「まわりを気にしないで」と言う。そしてその通りに歩いてみると、苦しくないのだ。つまり苦しんで歩いてはいけない、体に酸素をいっぱい取り入れれば苦しさは消える、気持ちよく歩けるんだよ、ということか。ゆうさんが野遊に言う言葉は細かい理屈はなく、その折々身につけているべき禁止事項を連発するばかりで、本当ならこんなに「~しないで」「~しちゃだめ」と言われていたら、委縮してしまうはずだけれど、ゆうさんの禁止語はどういうわけかギクッとこない。美しい山々に溶け込んで、優しい響きさえ感じられた。じっとこの力量不足の野遊を見守っているような丁寧なきめ細かい指導だった。

2日間の高度順応トレッキングの両日とも、ゆうさんは野遊の先を歩き後を歩いて指導してくだされた。他のトレッカーたちは先頭を行くシェルパの後を歩いていた。中に1人、昨日と今日のトレッキングの間中、軽い下痢症状の人がいて、休憩中以外にも青空トイレストップがあったが、それでも野遊の足取りのほうが遅かった。