鎌倉駅前の交差点物語 (3)留守宅に訪問

千一の家は鎌倉駅から、扇ガ谷(おうぎがやつ)方面に歩いて20分ほどの所で、わたしは彼の業務を手伝っているため、たびたび足を運んでいる。足の不自由な@さんを思って、鎌倉駅からタクシーで行った。14時。

議会のない日だったので、わたしはアポを取らずに出かけてしまった。もちろん、タクシーに乗る前に電話を入れたが、出なかった。千一は、電話を取れないこともあり、ヘルパーさんが13時から14時までなので、昼食のあと、疲れて電話を取れないことがある。電話で確認し合えないまま、時間を急いでタクシーに乗ってしまった。

10分足らずでタクシーを降り、千一宅の前に立つ。門前に駐車場があり、その奥が玄関だ。インターホンを鳴らしても、応答がない。在宅の場合は、10分ほど気を長く待てば、たいてい応答があるのだが。これはしまった。留守らしい。

千一のたいていのスケジュールを把握していたはずの自分が、議会のないこの曜日の午後は、たいていあいているとタカをくくったのがいけなかった。そういえば、あるイベントに招待されたると聞いていたが、この日だったのか。なんとも迂闊なことだ!

やんぬるかな。わたしたちはとぼとぼと引き返した。こんな閑寂な住宅街に、空のタクシーは通らない。この道を@さんに歩かせるのは相当な徒労となる。歩きながら、ケータイでタクシーを呼んだ。やがてタクシーが鎌倉駅の方からやってきて、ちょっと汗ばんだわたしたちは、ほっとして乗り込んだ。

@さんはそれほど乗り気なわけではないし、これだけのために@さんを連れ出すわけにはいかず、次回、@さんに会う機会を持ったときに、そのあと、再度誘ってみようと思った。

次期選挙が数ヵ月後に迫っていて、わたしが千一の手伝いをしていることを、先に@さんに伝えたので、しつこくしたくない。選挙がらみで誤解されたくない。そんな牽制意識?が、自分にはあった。
「もういいです。好意は充分わかりました。ありがとう」と@さんに優しく言われれば、わたしは悲しくなってしまう。「どのみち期待してはいないのです」と、聞こえてしまう。

@さんとは、あるサークル活動を通して、たまに顔を合わせる。わたしも予定が詰まっていることがあり、顔を合わせても、即、千一宅に訪問というわけにもいかず、時が過ぎていった。それから2ヵ月後、ようやく次ぎの機会を得た。