鎌倉駅前の交差点物語 (4)三人でティータイム

@さんは千一に会った。
手持ちのペットボトルのお茶を喫しながら、わたしたちは語り合った。
千一の飲み物は、テーブルの上に、ヘルパーさんが置いていってくれた、3種類のマグカップに入った、水、お茶、ジュースなどだ。ストローがさしてある。これなら千一は、顔をストローに近づけて、飲めるのだ。

千一は一人で暮らしている。朝、昼、晩と日に3回、ヘルパーさんが来て、着替え、食事、トイレ、入浴の介助をしてくれる。

お土産に持って行ったクッキーでティータイムとなった。千一の口に、クッキーを小さく割って入れてあげると、彼は噛んで飲み込むことができる。

@さんは、最初はどうすればいいのかなといった感じだった。普通の速度で話をして通じるのかなとか、思ってしまうのだ。初めて会った人は、千一は話がどこまで理解できるのかなと思うことがあるのだ。千一とお店に入ったとき、品物についてお店の人と話をしていたら、お店の人が、わたしに「聞こえているんですか?」と、千一を指しながら聞いたことがある。話の内容がわかっているのですかという意味だ。

千一は両手を赤ちゃんみたいに内側に丸めてちじこまってっているから、相手も「わかっているのかなぁ」と思うのだろう。でも少し一緒にいれば、すぐにわかる。まずは接することだ。

@さんは、千一に向かってゆっくりと簡単な言葉を発していたが、わたしが千一と普通に会話するので、やがてなじんでいった。

@さんは勇気を奮って、交差点のことを語り始めた。話は弾んだ。

「キット、ソノコトヲ、ツギノ、ギカイデ、シツモンニ、ダシマショウ」
曲がりくねった上体をようやく起こしながら、千一は音声キーボードを打って答えた。唯一自由に動く左足指で。


帰りもタクシーを呼んだ。降りるとき、@さんは、タクシー代を支払ってくれた。そんな、こちらが誘ったことなのにとわたしは思ったが、でも、先日の往復も、今回のこの往きも、いつもタクシー代を、あなたが支払ってくださったのでと、@さんは言った。このゆかしさに、わたしは感じ入った。